私が40年住んだ街、近江八幡
ウィリアム・メレル・ヴォーリズの建築物たち

公開日 / 2026.03.18更新日 / 2026.03.18

旧八幡郵便局(イメージ)

琵琶湖のほとりに佇む城下町・近江八幡。石畳に足を踏み入れると、どこか懐かしい気配が風に混じり、時代を超えた温もりに包まれます。この町を歩くとき、必ず出会うのが建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズの作品です。シンプルで控えめな外観と、扉を開けた瞬間に感じる優しい空気――。

彼が残した建物は、暮らす人々の心に寄り添い、今も街並みに息づいています。2025年はヴォーリズが来日して120年の節目でした。近江八幡で見つけた「美」と「暮らしの温かさ」を、地元に暮らす添乗員がお便りとしてお届けします。

40年暮らして見えてきた、近江八幡のやさしさ

こんにちは。クラブツーリズム添乗員の山下光世(やました・みつよ)です。今日は、私が40年あまり暮らしてきた近江八幡の“やさしい魅力”を、旅の途中でおしゃべりするような気分でお届けします。

旅のスイッチが入る、旧市街のまちなみへ

近江八幡は豊臣秀吉の養子である、豊臣秀次が開いた城下町。八幡山のふもとに、近江商人の町家が連なる「旧市街」がぎゅっと残り、琵琶湖へ続く水路が街に呼吸を与えています。駅前の新しい景色から、少し歩いて旧市街へ。空気がすっと和らいで、旅のスイッチが入ります。

この町を語るなら、ウィリアム・メレル・ヴォーリズの建築は外せません。ヴォーリズ(日本名:一柳米来留)はアメリカ出身のキリスト教宣教者にして建築家・教育者・事業家と多様な分野で活躍しました。1900年代初頭に来日し、近江八幡を拠点とし、建築家としては学校・教会・商業施設など全国で数多く(約1,600)設計しました。代表作には大阪の大丸心斎橋店、東京の山の上ホテル、西宮・関西学院大学上ケ原キャンパスなどが挙げられます。

御堂筋 大丸前交差点(イメージ)

建物の“内側”に宿る、ほんとうの表情

外観は控えめでも、室内に入ると途端に温かい。それがヴォーリズ建築の魅力。実は、わが子が通った幼稚園(現・ヴォーリズ学園 ハイド記念館)の園舎もヴォーリズによるものでした。毎日を過ごす“居心地の良さ”に、私は初めて建築のやさしさを教わりました。旧市街には、旧郵便局や旧八幡YMCA会館(現・アンドリュース記念館)や一般住宅を喫茶に改装したお店など、ヴォーリズの建物が点々と残ります。コツは「外観だけで判断しない」こと。見学可能な施設であれば、ぜひ入って“中の表情”に出会ってください。

ヴォーリズ学園 ハイド記念館 (画像提供:公益財団法人近江兄弟社)

水の音、石垣のぬくもり、風が運ぶ記憶

旧市街を散策するなら、町を流れる八幡堀の水路がおすすめ。和船に揺られ、水郷の葦が風に鳴る音を聞いていると、都会の時間がふっとほどけます。春は桜、秋はすすき、冬は水面の静けさ。歩ける方は八幡山へもどうぞ。子どもでも登れるやさしい山で、天守跡から琵琶湖の西日が沈む景色は、何度見ても胸に残ります。地域のみなさんが石垣や道を守り継いでこられたおかげで、今日も私たちはこの眺めに会えます。早春の伝統行事「左義長(さぎちょう)」など、祭りの灯を絶やさない努力にも、静かな誇りを感じます。

近江八幡 八幡堀(イメージ)

小さな“へぇ”も旅のスパイス。たとえば、塗り薬でおなじみの「メンソレータム」(現・近江兄弟社メンターム)はヴォーリズが輸入販売をはじめたので近江八幡が出発点なんですよ、とバスでお話しすると、皆さん目を丸くされます。

お腹が空いたら近江牛を。特上でなくても十分に旨いのが近江の底力。炊きたてのご飯も格別です。

近江八幡 八幡山城跡からの眺望(イメージ)

しみじみが、心に残る旅になる

近江八幡は“派手さ”より“しみじみ”が似合う町。ヴォーリズの静かな美、堀の水音、山上の風、食卓の湯気。どれも大げさに主張しませんが、旅が終わるころ、心にじんわりと残ります。2025年はヴォーリズが来日して120年目を迎える節目の年。この機会にぜひ、近江八幡の旧市街へ足を延ばし、扉の内側にある温かさに会いに来ませんか。私も現地で、あなたの「初めての発見」をそっと後押しできたらうれしいです。


<p.s.>ちょっと足をのばして…

ウサギとカメ(画像提供:豊郷町観光協会)

近江八幡市から車で30分ほど走ると、県下で最も小さな町、豊郷町があります。

その豊郷町で有名な場所のひとつに豊郷小学校旧校舎群があり、建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏の設計で建てられました。「白亜の教育殿堂」「東洋一の小学校」といわれ、平成25年には国の登録有形文化財に登録されました。

構内階段の手すりに設置されている「ウサギとカメ」の像は、遊び心あふれ、校舎がやさしい雰囲気に包まれています。

※本記事で紹介している内容は、2026年1月時点の情報をもとにしています。 最新情報は、公式サイト等でご確認ください。