「アイス消費量日本一」の街には、湯上がりアイス天国があった

公開日 / 2026.03.30更新日 / 2026.03.30

冬の温泉街で、なぜアイスなのか

どうも。アイス評論家のアイスマン福留です。「冬のアイス」と聞いて、あなたはどのような光景を思い浮かべるでしょうか。
暖房の効いた部屋で、こたつに入って食べる濃厚なアイスクリーム。背徳感にも似たそのご褒美感は、ここ石川県においては「特別な贅沢」ではなく「当たり前の日常」です。
総務省の家計調査において、金沢市のアイスクリーム・シャーベット支出額は常に全国トップクラス。2022年のデータでは1世帯あたり年間1万3,932円を記録し、全国平均を2,500円以上も上回っています。2012年からの11年間で実に7回も全国1位に輝いた、正真正銘の〝アイス王国〟なのです。

その背景は極めて合理的かつ文化的です。
金沢の夏(6月〜8月)の平均気温は25〜26℃。一般的にアイスクリームは気温が22〜23℃を超えると美味しく感じ始め、25℃前後で消費のピークに達すると言われています。つまり、気候条件が完璧にマッチしているのです。
そして冬。雪国ゆえに住宅の暖房設備が充実しており、室内は常に暖かい。さらに茶道文化が根付くこの地では、正月の「福梅」や夏の「氷室まんじゅう」など、四季折々に甘味を嗜む土壌があります。
そんなアイス王国の奥座敷に、知る人ぞ知る「湯上がりアイス天国」が存在します。
俳聖・松尾芭蕉が愛し、有馬・草津と並び「扶桑の三名湯」と讃えられた加賀・山中温泉。
今回は、開湯1300年の歴史を持つこの地で、温泉とアイスの極上のマリアージュを探究する「冬アイス温泉旅」へとご案内します。

芭蕉が愛した湯の街と、現代の「アイスストリート」

山中温泉は、約1300年前に高僧・行基が発見したと伝えられる古湯です。
元禄2年(1689年)、『奥の細道』の旅の途中、俳聖・松尾芭蕉がこの地を訪れました。温泉嫌いで知られた芭蕉が、異例の8泊9日も滞在したという史実は、この湯の質の高さを何より雄弁に物語っています。
芭蕉はここで、中国の「菊慈童伝説(菊の露を飲んで長寿を得た話)」になぞらえ、こう詠みました。

「山中や 菊は手折らじ 湯の匂ひ」
(この山中の湯の香りをかいでいるだけで、長寿の菊の露を飲まずとも長生きできそうだ)

この句こそが、山中温泉の総湯「菊の湯」の名前の由来です。
かつて文人墨客が愛したこの温泉街で、今、新たな文化が花開いています。それが「山中温泉アイスストリート」です。
「温泉に入った後、地元の人たちはみんなアイスを食べている。この文化を観光客にも伝えたい」——そんな想いから、湯の本町商店街振興会が中心となり2017年に発足しました。当初23店舗だった参加店は、現在39店舗にまで拡大。カフェや和菓子店だけでなく、精肉店、自転車店、薬局までもが参画し、57種類もの個性的な「ご当地アイス」を提供しています。

エリアも湯の本町商店街から、現在はメインストリート「ゆげ街道」へと広がりました。店先に「アイスストリート」の旗が出ていれば、その店でアイスを楽しめる目印。地元の山中小学校5年生がオリジナル缶バッジのデザインを考案するなど、地域ぐるみでPRに取り組んでいます。

今回の旅では、かつて芭蕉が句を詠んで感動を伝えたように、私もアイスを食べて、その感動を少しでもお伝えできればと思います。

まずは総湯「菊の湯」で、体の芯から温まる

アイスストリートを語る上で欠かせない〝町の顔〟「菊の湯」へ向かいます。
温泉の発見以来、湯ざや(共同湯)が造られてきた場所に建つ総湯です。全国的にも珍しい男女別棟で、おとこ湯は天平風の重厚な建物、おんな湯は優雅な曲線が美しい造りとなっています。

おとこ湯の浴室に入ると、シンプルで清潔な空間が広がります。浴槽の深さは1m、立ち湯で浸かるスタイル。お湯は無色透明で、肌にさらっとまとわりつく優しい泉質。中央の柱から出るジェットを背中に受けながら、このあとに食べるアイスの美味しさを想像して温まります。
壁面には九谷焼タイルで『山中温泉縁起絵巻』の一部が大きく描かれており、湯に浸かりながら温泉の歴史を感じることができます。

山中温泉総湯「菊の湯」

・住所:石川県加賀市山中温泉湯の出町レ1
・電話番号:0761-78-4026
・営業時間:6:45〜22:00
・定休日:第2・第4火曜日(祝日の場合は翌日休み)※臨時休業日あり
・入浴料:大人500円、中人150円、小人70円、3歳未満無料

湯上がりの火照った体を風に冷ましながら、いよいよ本題へ。ここからが〝湯上がりアイス天国〟の本領発揮です。

個性あふれる山中温泉のアイス4選

①菊の湯アイスキャンディー(250円)――1300年の源泉を「食べる」
体の芯まで温まった湯上がり、火照った体を冷ます風と共に楽しむのが「菊の湯アイスキャンディー」です。

「山中や 菊は手折らじ…」の句に想いを馳せて開発されたこの一本。ベースには実際の源泉を使用しており、透き通った氷の中には黄色い食用菊の花びらがふわりと浮かんでいます。光にかざせば、まるで琥珀の中に花を閉じ込めたような美しさ。

ひと口かじれば「シャリッ」と小気味よい音。氷菓ならではの軽やかな食感が心地よく、口の中でゆっくりと解けていきます。甘さは控えめ、後味はすっきり。ほのかに香る菊の風味が湯上がりの体に染み渡ります。

山中節と温泉の館 山中座

・住所:石川県加賀市山中温泉薬師町ム1
・電話番号:0761-78-5523
・営業時間:8:30〜22:00(通常期4月1日〜11月30日)
・定休日:年中無休
・価格:250円(通年販売)
・入館料:館内見学無料、山中節四季の舞は別途料金

②山中うるし座「金箔アイス」(2,000円)――伝統工芸の粋を纏う黄金のソフト
次に向かったのは、山中漆器の歴史と技術を伝える拠点施設「山中うるし座」。その1階に併設されたカフェ&レストラン「舞楽夢(ぷらむ)」で、看板メニューの「うるし座金箔アイス」をいただきます。

山中漆器×金沢の金箔×バニラソフトクリーム——まさに北陸の粋を集めた一品です。
まず目を奪われるのは、その佇まい。一枚物の金箔をまとったソフトクリームが、艶やかな山中漆器の器に盛られて登場します。

器は約10種類から好きなものを選べるのも嬉しいところ。スプーンもお盆もすべて山中漆器で統一されており、手に取るたびに伝統工芸の温もりが伝わってきます。

ソフトクリームはミルク風味。金箔のきらめきに反して、味わいは実にまろやかで上品です。

店主の梅田隆平さん曰く「金箔自体に味はない」とのことですが、この贅沢な演出があってこそ、特別な一杯になるのでしょう。

1988年創業の同店。この金箔アイスは翌年の平成元年から提供され続けています。もともとは山中うるし座から「器を使ってほしい」という依頼がきっかけでしたが、お盆やスプーンまで漆器で揃えたのは梅田さんのアイデア。細部までこだわり抜いた演出が、このアイスの価値を高めています。

地元よりも観光客、特に関西や関東からのお客さんに人気だそう。金の高騰で価格は2,000円に改定されましたが、漆器の町で味わう金箔アイスという体験は、それだけの価値があります。
店内には地元・山中小学校5年生が作ったチラシが貼られていたり、季節の鬼柚子が飾られていたり。温かな雰囲気の中で、ゆっくりとアイスを楽しめます。

山中うるし座「カフェ&レストラン 舞楽夢(ぷらむ)」

・住所:石川県加賀市山中温泉塚谷町イ268-2 山中うるし座内
・電話番号:0761-78-3338
・営業時間:9:00~21:00(L.O. 20:00)
・定休日:水曜日(年末年始12月31日〜1月3日)
・価格:2,000円(通年販売)

③山下自転車店「甘酒アイスキャンディ」(200円)――築90年の自転車店で出会う、酒蔵仕込みの一本

温泉で身体を温め、湯の本町商店街へ。「アイスクリーム通り」と書かれたレトロな看板を横目に進むと、どこか懐かしい佇まいの「山下自転車店」が現れます。名前からは想像もつきませんが、ここは知る人ぞ知る〝ご当地アイスの名店〟です。築90年という店構えは、まるで昭和にタイムスリップしたかのよう。

街並みに溶け込みながらも、ひと際存在感を放っています。平日にもかかわらず、通りがかりに外観を撮影する観光客もちらほら。ちょっとした人気スポットになっています。
扉を開けると、並んでいるのは自転車ばかり。

「本当にここで合っているのかな?」と不安になりますが、大丈夫。入ってすぐ右手に冷凍庫があり、その上に置かれた貯金箱にお金を入れるセルフサービス式です。

人情味あふれる商店街ならではの、なんとも温かい仕組み。

お目当ての「甘酒アイスキャンディー」は、「菊の湯アイスキャンディー」と同じ菊の形状。地元・松浦酒造の甘酒と酒粕を使用し、地元の洋菓子店が製造しています。アルコールは不使用なので、お子様でも安心です。

ひと口かじると、米麹の自然な甘みがふわっと広がります。シャリッとした食感に、濃厚な甘酒の風味。温泉で火照った身体に染み渡る、ひんやり優しい味わいです。
店主の山下さんは、2017年に始まった「山中温泉アイスストリート」の立ち上げメンバーの一人。それをきっかけに、自転車店でアイスを売り始めたそうです。〝自転車とアイス〟という不思議な組み合わせも、この町ではすっかり定番。山中温泉ならではのノスタルジックな雰囲気を体感できます。

山下自転車店

・住所:石川県加賀市山中温泉湯の本町ク-16
・電話番号:0761-78-1824
・営業時間:9:00〜19:00
・定休日:不定休
・価格:200円(通年販売)

④料亭 明月楼「うなぎのタレのアイスクリーム」(450円)――大正から継ぎ足す秘伝のタレを、一匙に
最後は、どうしても気になっていた一品。提供するのは、こおろぎ橋のすぐ近くに佇む老舗料亭「明月楼」。

大正から4代続く名店で、鶴仙渓を眺めながら川のせせらぎとともに料理を楽しめる、格式高い一軒です。そんな明月楼に話題のアイスクリームがあります。その名も「うなぎのタレのアイスクリーム」。アイスクリームにうなぎのタレ。大丈夫だろうか。

恐る恐る口に運ぶと、驚きました。うなぎの蒲焼きを思わせる香ばしさが、意外なほどバニラと調和しています。とはいえ、うなぎの身は使っていません。使うのは、大正の創業から継ぎ足してきた秘伝のタレのみ。

あっさりとしたミルクアイスに濃厚なタレが合わさり、キャラメルのような、あるいは甘辛いみたらしのような、独特の味わいが生まれています。
食べ方にもこだわりが。最初はそのまま味わい、後半は付属の青山椒をのせて。ピリッとしたアクセントが加わり、相性は抜群です。途中で味変できるのも楽しいところ。

お話を伺ったのは、4代目の北村浩太郎さん。

割烹料亭で7年修行を積んだ後、明月楼に戻ったそうです。
「もともとはコースのデザートとして出していたんです。それを7〜8年前にカップアイスとして製品化しました。最初は驚かれますが、評判は上々ですよ」
製造は地元の洋菓子店に委託。秘伝のタレを預け、ミルクアイスとの配合バランスを何度も調整したといいます。

「この比率こそが、おいしさの原点。老舗料亭だからこそ実現できた味だと自負しています」
全国に変わり種アイスは数あれど、ユニークさとおいしさを両立したものは稀。正直、また食べたい——和のデザートとして完成された、料亭の底力を感じる一品です。

料亭 明月楼

・住所:石川県加賀市山中温泉下谷町ロ1-1(こおろぎ橋たもと)
・電話番号:0761-78-0103
・営業時間:11:00〜14:00 / 17:00〜22:00
・定休日:水曜日
・価格:450円(90ml、山椒付/テイクアウトのみ、通年販売)

もう一湯。源泉かけ流しの穴場温泉へ

アイスを堪能した後は、もう一度温泉で温まりたくなるもの。訪れたのは「加賀別所温泉」です。

山中温泉から車で約14分、山代温泉と山中温泉の中間に位置する、地元の人たちに愛される穴場的な日帰り温泉施設。100%源泉が浴槽から溢れ出る、文字通りの源泉かけ流し。露天風呂、井戸水を使った水風呂、サウナも完備し、清掃が行き届いて清潔です。

泉質はカルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉。ミネラル分を多く含み、アトピーや神経痛に効果があるとされています。弱アルカリ性のしっとり美肌温泉として評判で、落ち着いた庭園にしつらえられた露天風呂が好評。体が芯から温まります。
名物は温泉仕込みの極旨温泉たまご。健康たまご白(1個90円)と平飼いたまごゴールド(1個100円)の2種類があり、とろりとした黄身は絶品です。

加賀別所温泉(別所温泉会館)

・住所:石川県加賀市別所町1丁目91
・電話番号:0761-76-1625
・営業時間:11:40〜22:00(最終受付21:30)
・定休日:年中無休
・入浴料:大人500円、小学生150円、未就学児70円、2歳未満無料

山中温泉、もう一つの楽しみ方
鶴仙渓とこおろぎ橋――北陸随一の渓谷美

アイスを楽しんだら、ぜひ鶴仙渓の散策もおすすめです。大聖寺川の渓谷沿いに整備された約1.3kmの遊歩道は、四季折々の絶景が楽しめます。特に秋の紅葉シーズンは圧巻。渓谷を彩る赤や黄色の紅葉が、温泉街の情緒をさらに高めてくれます。
山中温泉を代表する名勝が「こおろぎ橋」。総ひのき造りの風雅な橋で、四季を彩るその風情には日本の情緒が凝縮されています。「こおろぎ」の名の由来は諸説あり、かつて行路が危険だったため「行路危(こうろぎ)」と称されたとも、秋の夜に鳴くコオロギに由来するともいわれています。2019年に4代目の橋が完成し、今も多くの観光客が訪れています。

ゆげ街道――温泉情緒あふれるメインストリート

菊の湯から長谷部神社、こおろぎ橋付近まで約600m続く「ゆげ街道」。温泉の湯気と匂いが漂う中、山中漆器や九谷焼のギャラリー、カフェやお食事処が軒を連ねます。
電柱がなく幅広い歩道が整備されており、のんびりと散策できます。街道のお店では手荷物預かりやトイレを無料で利用できるのも嬉しいポイント。精肉店「肉のいずみや」の手作りコロッケは行列ができるほどの人気です。

旅先で"アイスの自由研究"、いかがでしょう

山中温泉の町には、温泉だけでなく「アイスで出会う文化と風土」がありました。
昔ながらの湯治場に、ちょっと背伸びした料亭の味。レトロな自転車店の人情味、漆器職人の技。ひんやり甘いアイスを通じて、町と人とがやさしくつながっている——そんな印象を受けました。
1300年の歴史を持つ温泉地が、新しい魅力で観光客を迎える。伝統を守りながら、新しいことに挑戦する。そんな山中温泉の人々の想いが、一つ一つのアイスに込められているように感じます。
雪が降り始める頃、温泉で温まってアイスを食べる。非日常の中の小さな贅沢。それが、山中温泉流の冬の楽しみ方です。
次の旅の候補に、ぜひ山中温泉を。そして、アイスストリートでお気に入りの一品を見つけてみてください。

【山中温泉アイスストリート公式サイト】 https://www.yamanaka-spa.or.jp/icestreet

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