100年先につなぐ「ねぶた愛」 第3回「ねぶたに灯る、人の思い」

公開日 / 2026.08.18

写真上から、若佐谷大樹さん、鍋山彩夏さん、佐治隆雄さん

雪国の短い夏、街を包み込む熱気とともに、人々の心を一つにする青森ねぶた祭。

第2回まではねぶた制作の様子を追ってきましたが、祭りを支えているのはねぶた師だけではありません。
「青森の一年は、ねぶたを中心にめぐっている」といわれるほど、この祭りは地域の暮らしに深く根付き、多くの人々が一年をかけて本番を迎えます。

今回の「縁の継ぎ人」で出会ったのは、ねぶたを「つくる人」ではなく、祭りを支え、文化への入口をつくり、旅を通して感動を届ける人たち。

立場は違っても、その胸にあるのは、青森ねぶた祭を次の夏へ、次の世代へ受け継ぎたいという同じ思いでした。

一人ひとりの「青森愛」が、一つのチームを強くする
ーあおもり市民ねぶた実行委員会 佐治隆雄会長ー

青森ねぶた祭では大型ねぶたを中心に、山車を運ぶ「曳き手(ひきて)」、ねぶたの指揮者「扇子持ち」、笛や太鼓を奏でる「囃子方(はやしがた)」などが一つのチームとして隊列をつくり、街を練り歩きます。

その一つが、青森市民有志によるあおもり市民ねぶた実行委員会。
結成当初から活動を支え、現在は会長を務める佐治隆雄さんにねぶたへの思いを伺いました。

あおもり市民ねぶた実行委員会 佐治会長

あおもり市民ねぶた実行委員会 佐治会長

2002年に誕生した「あおもり市民ねぶた実行委員会」。
佐治会長はその役割を「子どものころからねぶたに親しんできた青森市民と、ねぶたを愛する県内外の仲間をつなぎ、ともに祭りを盛り上げていくこと」と話します。
しかし、結成当初は運行団体としての認知度も低く、人集めには苦労したといいます。

それでも「個人の集まり」を「一つのチーム」へと育てることを目指し、市民の手で少しずつ仲間を増やしてきました。

ねぶたをこの先も動かし続けるためには、まず人をつなぐこと。その積み重ねが、今の市民ねぶたを支えています。

ひとくち解説

ねぶたの運行団体とは?
ねぶたの運行団体とは?

ねぶた師へのねぶた制作依頼から演者の募集、本番の運行までを行う団体。その代表は市役所、学校、事業所などさまざまです。
あおもり市民ねぶた実行委員会は青森市民の有志からなる団体で、「ねぶた山車」「運行」「囃子」と協賛企業を一体と捉えた「三位一体+ワン/one」を理念に活動しています。

新たな才能と出会い、祭りはさらに進化する

2012年、実行委員会はデビューを目指していたねぶた師・北村麻子さんと出会います。

「麻子さんの作品には、それまでのねぶたとは違うインパクトがありました。『紙と灯(あか)りのアート』とも呼ばれるねぶたの魅力を、彼女ならではの繊細な表現で引き出してくれました」
佐治会長はそう振り返ります。

麻子さんの作品はこれまで数々の賞を受賞。その評価は作品だけでなく、市民が一丸となって祭りをつくる運行団体にも注目を集めました。
「受賞をきっかけに、私たちも『昨年以上を目指そう』という思いが強くなりました」。

作品の進化は、人の成長にもつながる。ねぶた師の挑戦に刺激を受けながら、市民もまた最高の祭りを目指して歩み続けています。

北村麻子さん作 2024年ねぶた大賞「鬼子母神」

北村麻子さん作 2024年ねぶた大賞「鬼子母神」

人が集う限り、ねぶたは未来へ続いていく

佐治会長は、青森ねぶた祭がこれからも発展していくためには、新しい青森ファン、ねぶたファンを増やしていくことが欠かせないと話します。

「ねぶた祭の一番の目的は、青森の人にも、見に来た人にも、楽しさと感動を味わってもらい、『また来年も来たい』と思っていただく。それが私たちの使命です」。

市民一人ひとりの思いの灯火が、人を呼び、絆を深め、新たなねぶたファンを生む。
そうして燃え上がる熱意こそが、青森ねぶた祭を未来へ動かし続ける原動力なのかもしれません。


ねぶた文化への「はじめの一歩」に手を差しのべる
ーねぶたの家 ワ・ラッセ 若佐谷大樹さんー

青森駅の海側にたたずむ「ねぶたの家 ワ・ラッセ」

青森駅の海側にたたずむ「ねぶたの家 ワ・ラッセ」

祭りは6日間。でも、ねぶた文化は一年を通して人々を迎え入れています。

青森駅前に建つ「ねぶたの家 ワ・ラッセ」は、青森ねぶた祭の歴史や魅力を伝える文化交流施設。ここには国内外から多くの人が訪れ、ねぶたとの最初の出会いを楽しんでいます。

その「入口」を支えているのが、スタッフの若佐谷大樹さん。展示や体験を通して、一人でも多くの人にねぶたの魅力を知ってもらうため、日々その魅力を伝えています。

「本物」に触れた瞬間、ねぶたはもっと好きになれる

ワ・ラッセが大切にしているのは、できる限り「本物の祭り」を感じてもらうことだそうです。

館内の「ねぶたホール」には、実際に祭りを運行した大型ねぶたを展示。よく見ると、雨に濡れた跡や染料のにじみまで残されており、本番の熱気や迫力をそのまま伝えています。

さらに、紙貼りされたねぶたに触れられる「タッチねぶた」や、自分で描いた絵をねぶた面に映し出す「マイねぶた」など、ここならではの体験も充実しています。

「見て終わりではなく、気軽にねぶたの世界へ入り込んでもらいたい」。
そんな思いが、館内の随所に込められています。

大型ねぶたを展示するねぶたホール

大型ねぶたを展示するねぶたホール

「体験」が新たな担い手を育てていく

ワ・ラッセでは、毎日開催される「おまつり体験」も人気です。

跳人(ハネト)になって踊ったり、囃子方の楽器を鳴らしたり。子どもから海外の観光客まで、誰もが祭りの一員になれる時間が流れています。

若佐谷さんは話します。
「おまつり体験では、初めての人でもできる簡単なリズムで、音を聞き、体を動かす楽しさを体験してもらっています。これが街中に広がるとどうなるか、いつか本番のスケールも体感してほしいですね」。

この体験がきっかけで、再び青森を訪れる人も少なくありません。祭りの入口で生まれた感動が、次の来訪へ、そして新たな参加者へと導いているのです。

おまつり体験で演奏される太鼓(左)と手振り鉦(てぶりがね・右)

おまつり体験で演奏される太鼓(左)と手振り鉦(てぶりがね・右)

「誰でも参加できる」が、文化に親しむ近道

ねぶたの家 ワ・ラッセ 若佐谷さん

ねぶたの家 ワ・ラッセ 若佐谷さん

下絵コンクール入賞作品

下絵コンクール入賞作品

「当館は、ねぶた祭に興味をもつ方々にとっての入口です」そう話す若佐谷さん。

ワ・ラッセでは、全国の小・中学生を対象にした「下絵コンクール」が開催されています。
最優秀作品は若手ねぶた師によって実際のミニねぶたや中型ねぶたとして制作され、中にはこのコンクールをきっかけに、ねぶた師へ弟子入りした人もいるそうです。

さらに、跳人講座や囃子講習会も開催し、各運行団体に参加するまでをサポートしているとのこと。
文化を次の世代へ受け継ぐために必要なのは、特別な才能ではありません。
「やってみたい」と思った人の背中を押すこと。

ワ・ラッセは、その最初の一歩を支える場所でもあります。

変わらない心と、新しい挑戦を伝えていく

若佐谷さんは、ねぶた文化を広く、長く伝えていくために大切なのは、「変えずに受け継ぐことと、新しい挑戦」だと話します。

昔ながらの題材へ原点回帰する作品がある一方で、現代ならではのテーマを取り入れた作品も生まれています。
特にコロナ禍以降は、その年の社会情勢や人々の思いを映し出す作品も増えてきました。
祭り本番では見逃してしまう細かな表現も、ワ・ラッセならじっくり鑑賞できます。

「青森にとって、ねぶたは当たり前にあり、なくてはならないもの」。
そう語る若佐谷さんの姿からは、展示を通して文化を多くの人に好きなってもらいたいという強い思いが伝わってきました。

佐治会長が人を結ぶ継ぎ人だとすれば、若佐谷さんは文化を伝える継ぎ人。
祭りが終わっても、ねぶた文化は終わりません。
その魅力を知り、好きになり、次は自分も参加してみたい――。
そんな新たな一歩を生み出すこともまた、文化を未来へ受け継ぐ大切な営みなのです。


旅を通じて、現地だからこそ味わえる感動へいざなう
ークラブツーリズム 首都圏第2国内旅行センター 鍋山彩夏さんー

文化は、その土地で守られるだけではすそ野を広げていくことができません。
現地を訪れ、目の前でその迫力に圧倒され、人々の思いに触れる――。そんな出会いを生み出すことも大切な役割です。

青森ねぶた祭のツアーを数多く企画してきたクラブツーリズムの鍋山彩夏さんに、現地で見る醍醐味と、お客様に届けたい思いを聞きました。

「現地でしか味わえない感動」を届けたい

「私が初めて青森ねぶた祭を訪ねたのは、お客様のご案内やねぶたの誘導を行う現地係員として祭りに携わったときでした。そこで感じた圧倒的な迫力は今でも忘れられません」と、鍋山さんはねぶたとの出会いを語ります。

祭りの開催が近づくにつれ、街全体を包み込む高揚感。
祭りが終わればあっという間に冬支度へと切り替わる儚さ。
青森ねぶた祭が根付いた雪国・青森の暮らしすべてが愛おしく、魅力的だといいます。

現地係員として青森ねぶた祭に参加した鍋山さん

現地係員として青森ねぶた祭に参加した鍋山さん

「ねぶた祭はテレビや写真で見ることもできますが、曳き手、囃子、跳人が一体となって生み出す熱気や、約3kmにわたって続くねぶた運行のスケール感は、自分の目、自分の肌でしか味わえません」。

だからこそ、まだねぶたを見たことがない人にも一度は現地でその熱気を感じてほしい。その場に立って初めて伝わる魅力があると、鍋山さんは話します。

「知って見る」ことで、祭りはもっと心に残る

ねぶたファンのひとりでもある鍋山さんに、青森ねぶた祭を楽しむコツを聞きました。

「ねぶたは、ただ豪華で迫力があるだけではありません。そこには、ねぶた師や祭りに携わる人々の思い、題材に込められた物語があります」。
そうした背景を知ってから祭りを見ることで、感動もいっそう大きなものになるのだそうです。

クラブツーリズムでは、祭り前日の8月1日に「前夜祭 in ねぶたの家 ワ・ラッセ」を開催しています。
ねぶた師・北村麻子さんによる作品解説や、跳人の演舞、囃子演奏などを通して、本番前にねぶた文化への理解を深めてもらうイベントです。

クラブツーリズム 鍋山さん

クラブツーリズム 鍋山さん

作り手や地域の人々の思いを知ることで、一台一台のねぶたがより印象深く映ります。
「来年はどんなねぶたが見られるんだろう」と、また青森に足を運んでほしい。そんな思いが、ツアーづくりの原点にもなっているのだそうです。

「心に残る体験」は、また青森へ帰りたくなる

青森ねぶた祭ツアーには、毎年多くのお客様が参加します。その中には、毎年のように青森を訪れるリピーターも少なくありません。

その年ならではの題材や込められた願いに触れることで、ねぶたとともにこれまでの一年を振り返り、この先の一年を元気に過ごす。そんな特別な体験が、何度も足を運ぶ理由になっているとのこと。

「お客様がじっくりねぶた祭と向き合える旅になるよう力を注いでいます。私たちがサポートしますので、まずは現地に足を運んで体感してください!」と鍋山さん。

旅行会社の役割は、目的地へ案内することだけではありません。現地だからこそ味わえる魅力を伝え「また来たい」と思える体験を届けること。
その積み重ねが、ねぶたを愛する人を少しずつ増やしていく――。鍋山さんはそう信じながら、旅を通じてねぶた文化とお客様をつなぎ続けています。

人の数だけ紡がれる、思いの物語

人の輪を広げる人。文化へ迎え入れる人。感動を届ける人。
三人の役割は、それぞれ違います。しかし、その先に見据えているものはひとつでした。

青森ねぶた祭を、この先も多くの人に愛される文化として受け継いでいくこと。

市民が祭りを動かし、文化施設が魅力を伝え、旅が新たな感動へいざなう。
一人では支えきれない文化も、人の輪が広がることで、次の夏へ、次の世代へと受け継がれていく。それこそが、今回出会った「縁の継ぎ人」たちの姿でした。


【次回予告】

一年の準備を経て、ねぶた師やねぶたを愛する多くの人の思いが、青森ねぶた祭の6日間に集結します。

心の灯火は熱き炎となって熱狂の渦へ――。
次回は、いよいよ「青森ねぶた祭」当日の様子を現地からレポートします。

緊張と期待が高まる前夜祭から、街中が熱気に包まれる本祭まで。
ついに動き出す大型ねぶたと、チーム一丸となって躍動する人々の様子を臨場感たっぷりにお届けします。お楽しみに

※本記事で紹介している内容は、2026年7月時点の情報をもとにしています。 最新情報は、公式サイト等でご確認ください。

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