クラブツーリズム TOP「旅の友」Web版【東日本版】日本遺産の地に生きる 〜第12回〜

日本遺産の地に生きる

日本遺産STORY

さまざまな文化を受け入れつつも、半島という地理的閉鎖性によって独自の文化を育んできた能登には、祭礼をはじめとする貴重な民俗行事が受け継がれ、「民俗の宝庫」、「祭りの宝庫」とも呼ばれます。
能登の祭礼の中心となるのは「キリコ祭り」と総称される灯籠神事で、能登の人々の生活に溶け込んで、今なお盛んに行われています。キリコとは「切子灯籠(きりことうろう)」を縮めた呼び名で、祭礼に使われる山車の一種です。しかし、キリコ祭りと総称されているものの、それぞれの祭りは多種多様。その数は200近くにのぼるとされ、それぞれの地域・気候風土・気質と深く結び付き、集落ごとに形状や規模が異なります。これほどまでに灯籠神事が集積した地域は全国を見ても唯一無二です。

夏、能登を旅すればキリコ祭りに必ず巡り会えるといっても過言ではなく、それはキリコが供奉する神々に巡り会う旅ともなるのです。(写真は、石川県の無形民俗文化財に指定される「宇出津のキリコ祭り」の「大松明乱舞」の様子)

「日本遺産」とは、文化庁が認定した日本の文化・伝統を語るストーリー。2019年6月までに83のストーリーが認定されました。

地域の歴史的魅力や特色を国内外へ発信することや地域活性化を目的としています。

祭りは家族や地域をつなぐだけでなく明日への活力を生み出す原動力

「もうすぐ祭りやね」――毎年5月の連休を過ぎた頃から、宇出津の町内ではこんなあいさつが交わされるようになるといいます。また、ある人は「また嫌な時期が来たね」。とはいうものの、実は少しうれしい。苦しみ半分、楽しみ半分。能登の夏祭りの先陣を切る宇出津のキリコ祭りは担い手にとってそんな行事なのだ、と八坂神社奉賛会の本谷(もとや)順一さんは話します。

「私たちにとって夏の祭りは一年の節目。毎年7月が迫ると、なんとか今年も元気に過ごすことができたなあと感じます」(本谷さん)

宇出津を離れても、祭りには必ず帰るという人が多いそうです。物心が付けば法被(はっぴ)をまとって祭りに加わり、キリコや御輿を担ぐ。幼い頃から体に染み付いたこの祭りをなかなか忘れられないのではないか、と本谷さん。

現在は東京都杉並区に暮らす本谷さんの娘、北村美果さんもその一人です。「キリコ祭りは私にとって生きる糧のようなもの。この日があるから、故郷から離れた地で一年間頑張れると思っています」(北村さん)――家族をつなぐだけでなく、人を育て、また地域と結び付ける役割も担う宇出津のキリコ祭り。心躍らせ、明日への活力を生み出す原動力になっています。

宇出津・八坂神社奉賛会事務局長、八坂神社 彌榮(いやさか)太鼓保存会代表 本谷順一さん

宇出津・八坂神社奉賛会事務局長、八坂神社 彌榮(いやさか)太鼓保存会代表
本谷順一さん

能登のキリコ祭りの先陣を切る宇田津の「あばれ祭り」
祭り2日目の「あばれ御輿」で、川に投げ入れられる御輿。手荒く扱えば扱うほど、荒ぶる神・スサノオノミコトに喜ばれるといいます
祭り2日目の「あばれ御輿」で、たき火に投げ込まれる御輿の様子。能登のキリコ祭りの中でも、これほど荒っぽい祭りはありません

祭り2日目の「あばれ御輿」で、川に投げ入れられる御輿。手荒く扱えば扱うほど、荒ぶる神・スサノオノミコトに喜ばれるといいます

祭り2日目の「あばれ御輿」で、たき火に投げ込まれる御輿の様子。能登のキリコ祭りの中でも、これほど荒っぽい祭りはありません

 7月初旬から10月中旬までの間に、能登半島の百数十を超える地区でキリコ祭りが行われます。その先陣を切る、能登町宇出津(うしつ)地区・八坂神社の祭礼は「あばれ祭」とも呼ばれ、町自慢のキリコ四十数基が大松明の火の粉を浴びながら乱舞する、勇壮さで知られる神事です。宇出津のキリコ祭りは寛文年間(1661〜1672年)に疫病が流行した際、京都の祇園社から牛頭(ごず)天王を勧請し、盛大な祭礼を始めたところ病気が治り、これを喜んだ人々がキリコをかついで八坂神社に詣でたのが始まりと伝わります。

 毎年7月の第1金曜日・土曜日に行われており、祭り2日目に登場する御輿は、海や川あるいは火中に投げ込まれ、地面に叩きつけられ、原型をとどめないほどになることも。「八坂神社の祭神スサノオノミコトは、大暴れすればするほど喜ぶ神様。御輿を叩きつけたり、川に投げ入れたりすることで、大地や水を神様に清めてもらうのです。最後は火に投げ込んで御輿を清めます」と話してくれたのは、先に登場いただいた宇出津・八坂神社奉賛会の本谷順一さん。見る人にとっては壊すことが目的のように思えるが、実はそうではなく祈りの作法なのだと教えてくれました。

 子どもからお年寄りまで、それぞれに役割を持って出来上がる宇出津のキリコ祭り。太鼓や笛、シャギリ(鉦)など囃子の音色やリズムに至っては、母親の胎内にいるうちから体に染み付くとまで言われます。「お腹が空いたからご飯を食べるような、ごく当たり前のこと」(本谷さん)――宇出津のキリコ祭りは、地域に暮らす人々にとって体の一部のような夏祭りです。

漁師町ならではの迫力に満ちた小木袖キリコ祭り
武者絵や浮世絵に彩られる袖キリコ。能登半島に多く見られる長方形の灯籠ではなく、奴凧を思わせる独特の形で知られます
初日のクライマックス、「宮上げ」の様子。笛や太鼓が激しく鳴り響く中、神社へ向かう宮(やしろ)坂の石段を上っていきます

武者絵や浮世絵に彩られる袖キリコ。能登半島に多く見られる長方形の灯籠ではなく、奴凧を思わせる独特の形で知られます

初日のクライマックス、「宮上げ」の様子。笛や太鼓が激しく鳴り響く中、神社へ向かう宮(やしろ)坂の石段を上っていきます

 日本海に大きく突き出た能登半島では、古来漁業を生業(なりわい)としてきた地区が多く、半島北東部に位置する能登町小木(おぎ)地区もその一つ。全国有数のイカ漁の基地港として知られています。毎年5月と9月の祭礼はどちらも海の安全と豊漁を願う行事で、春には「とも旗祭り」が、秋には「袖(そで)キリコ祭り」が行われています。本稿では秋の「袖キリコ祭り」について紹介しましょう。

 毎年9月の第3土曜日・日曜日に行われるこの祭りのキリコは、能登半島では珍しく奴凧(やっこだこ)を連想させる形の大あんどん。祭りのクライマックスでは高さ3.7m、幅5.5mもの9基の袖キリコが、小木の氏神社・御船(みふね)神社に向かう急で狭い階段をロープで引き揚げ、押し上げられます。「ヨイトショー、ヨイトショー」の掛け声も勇ましい、漁師町ならではの迫力あふれる場面です。

 能登町立小木公民館で館長を務める上見(うわみ)純二さんは、この袖キリコの形について「青森のねぶたの流れをくむものではないか」と説明します。能登にみられるキリコは、神様の乗り物である御輿のお供であり、夜道を照らす灯りでもありました。さまざまな形があるのは、渡御の道中を照らしていた小型のものが大型化していく過程で、地区ごとに特徴が生まれたためと考えられています。また上見さんは、北前船がもたらした日本海文化の一つにねぶたがあったという見方もある、とも話してくれました。

 過疎化が進む奥能登ですが、小木でも祭りの担い手不足は深刻な問題です。伝統文化の継承という観点から、上見さんは小中学生を対象とした学習会で講師を務めるなど、後進の育成に力を入れています。

能登町立小木公民館館長 上見純二さん

能登町立小木公民館館長
上見純二さん

編集部おすすめ!周辺スポット
見附島

見附島

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恋路海岸

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能登半島内浦の穏やかな海と白砂が広がる能登屈指の景勝地。ハート形の「幸せの鐘」が設置されており、ロマンチックな雰囲気が味わえるスポットとして知られています

真脇遺跡公園

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2020年4月22日オープン!奥能登注目の新スポット

イカの駅 つくモール

観光案内所と展示、レストラン・カフェ、地元特産品直売所の4つの機能を併せ持つ観光交流センター「イカの駅 つくモール」

観光案内所と展示、レストラン・カフェ、地元特産品直売所の4つの機能を併せ持つ観光交流センター「イカの駅 つくモール」(能登町越坂。写真はイメージパース)

九十九(つくも)湾遊覧船やマリンレジャーも楽しめる、奥能登内浦エリアの新たな観光拠点として開業。小木港で水揚げされた「船凍イカ」を使った料理を提供するレストランや地元の特産品の直売所、イカ漁についての展示など、奥能登を訪れた人が楽しめる仕掛けがふんだんに詰め込まれた施設です。

駅長の寺内崇博さん

「能登は豊かな自然に恵まれたすべての食が楽しめるエリア。おいしい米や魚、野菜を使った料理と地酒を楽しんでいただきたいですね」と語る駅長の寺内崇博さん

九十九湾遊覧船

4月より、九十九湾遊覧船がリニューアルして運航開始。約40分かけて九十九湾内を周遊します。台風が来ても船が出せるというほど穏やかな湾内の遊覧は、乗り物酔いしやすい方にも安心です。大小さまざまな入り江が作り出す箱庭のような美しい景色を楽しめます。

鬱蒼としたスダジイが生い茂る蓬莱島は遊覧コースの見どころのひとつ

鬱蒼としたスダジイが生い茂る蓬莱島は遊覧コースの見どころのひとつ

船内部のガラス窓からは海中の様子とそこで暮らす生き物の姿が望めます

船内部のガラス窓からは海中の様子とそこで暮らす生き物の姿が望めます

里山里海が育む、能登のうまいもん

小木港「船凍イカ」

能登半島内浦に位置する小木港は小さい港ながら、函館、八戸と並ぶ「船凍(せんとう)イカ」の三大漁港。釣ったスルメイカを船上で急速凍結させ、鮮度がよい状態のまま流通させることから、「小木物」と呼ばれるブランドとして知られています。

イカ釣り船が停泊する小木港。6〜12月のイカ釣りの時期はここから出港します

イカ釣り船が停泊する小木港。6〜12月のイカ釣りの時期はここから出港します

小木港近くにあるイカ加工品専門店「和平商店」。「イカの駅つくモール」にて販売予定

小木港近くにあるイカ加工品専門店「和平商店」。「イカの駅つくモール」にて販売予定

1本ずつ冷凍された「船凍イカ」。マイナス40℃で凍結されたイカは、解凍しても味が落ちず、刺し身でいただくとトロリとした食感で濃厚な甘みを楽しめます

1本ずつ冷凍された「船凍イカ」。マイナス40℃で凍結されたイカは、解凍しても味が落ちず、刺し身でいただくとトロリとした食感で濃厚な甘みを楽しめます

能登野菜

能登半島の風土を生かして育てられた17種の野菜を認定。能登の伝統食に含まれ昔から育てられている「能登伝統野菜」と、能登を代表する野菜として生産されている「能登特産野菜」の2種類があり、いずれも優れた特長と品質を備えています。

能登野菜のひとつ「かもうり」。瑞々しく、和食に合う味わい

能登野菜のひとつ「かもうり」。瑞々しく、和食に合う味わい

赤崎イチゴ

赤崎台地で育った「宝交早世(ほうこうわせ)」という品種で、実がやわらかく甘いのが特長。足が早いので市場に出回ることが少なく、希少価値の高い「幻のイチゴ」といわれています。

5月中旬に最盛期を迎えます

5月中旬に最盛期を迎えます

ブルーベリー

能登の地質は本来ブルーベリーの栽培に向きませんが、土壌改良を重ね、今では100戸以上の農家が栽培する生産地です。太陽の恵みを取り込んだ瑞々しい果実を味わえます。

7月上旬〜8月が収穫期

7月上旬〜8月が収穫期
(農園により前後します)

能登の食材が味わえる、おすすめスポット

津久司

能登の新鮮な魚介類を使った鮨・海鮮料理店。「おいしい魚を気軽に味わってもらいたい」と主人自ら目利きをする魚料理は絶品です。(能登町宇出津)

ランチは8貫で550円(のり汁付き/税込み)

ランチは8貫で550円(のり汁付き/税込み)

田の浦荘

海の幸を中心とした会席料理を提供する料理旅館。立山連峰の伏流水が流れ込む能登内海(富山湾)は良好な漁場として知られています。(能登町宇出津)

旬の魚をふんだんに使った会席料理が自慢です

旬の魚をふんだんに使った会席料理が自慢です

ライダーズマンスリーベースPEACE(ピース)

ライダーズハウスを併設したオールドアメリカン風のカフェ。海に臨むロケーションと能登の食材を使った洋食メニュー、気さくな女性オーナーとの会話が魅力です。(能登町越坂)

遠浅の美しい海を眺めながらのんびり休息を

遠浅の美しい海を眺めながらのんびり休息を

能登酒造めぐり〜地酒の宝庫、能登でおいしいお酒を探す〜

数馬酒造

代表銘柄は「竹葉」。能登の米にこだわり、契約栽培米を使用。耕作放棄地を開墾するなど米作りからの酒造りにこだわっている酒造です。(能登町宇出津)

カキやイカ、牛に合わせた酒など地域や企業と連携してさまざまな新酒を開発

カキやイカ、牛に合わせた酒など地域や企業と連携してさまざまな新酒を開発

松波酒造

昔ながらの手作りの工程を多く残している創業150余年の歴史ある酒造で、テイスティングバーの設置や動画配信なども行っています。代表銘柄は「大江山」。(能登町松波)

レトロな道具を間近に見学できる酒蔵見学が人気です(要予約)

レトロな道具を間近に見学できる酒蔵見学が人気です(要予約)

宗玄酒造

創業250余年、奥能登屈指の歴史を誇る酒造。日本四大杜氏に数えられる能登杜氏発祥の蔵といわれています。代表銘柄は「宗玄」。(珠洲市宝立町宗玄)

廃線となった「のと鉄道」のトンネルを貯蔵庫として利用

廃線となった「のと鉄道」のトンネルを貯蔵庫として利用

能登のキリコ祭り鑑賞ツアーはこちら

日本遺産・灯り舞う半島 能登〜熱狂のキリコ祭り〜能登をあなたの心のふるさとにしませんか?

 「キリコ」と言う音声(言葉)を聞いたとき、私は薩摩切子・江戸切子といったガラス細工を連想しましたが、能登「キリコ」は…「切籠(きりこ)」または「奉燈(ほうとう)」と呼ばれる、高さ数mから十数mの巨大な切子灯籠を使うことを特徴とする祭りです。地域によっては「御明かし(おあかし)」とも呼ばれ、7月から10月の夏祭り・秋祭りとして、今年も137地区で開催予定の伝統行事です。1997年に国の「無形文化財」に登録され、ご承知のように2015年に文化庁が「日本遺産」を制定した折の最初の18件のひとつです。

 今回取材させてもらったのは、137地区の中でも祭りが集中する地区である、能登町の宇出津と小木のキリコ祭りです。各市町がそれぞれ趣向を凝らしたキリコ祭りですが、すべては取材できないので祭りの口火を切る勇壮な宇出津の「あばれ祭」と、その隣町で優雅なキリコで知られる小木の「袖キリコ」を中心に本稿ではご紹介しました。2つの祭りに共通して言えることは、前出の地域の皆さま方のコメントに見られるように「祭り」と住民の方々の「絆」の深さです。大多数の方々が帰省するのは盆と正月ですが、ここ能登半島では各地域の祭りの日がまるで正月のよう。いわば祭り当日が1年の節目として、地域の歳時記が動いているように感じました。町を離れた人たちもこの日は仕事を置いて帰省し、町は全盛期のように活気づきます。インタビューでは、祭りの日に休みが取れないくらいならと会社を辞めた人の話も伺いました。私のように「故郷」を持たない者は理解に苦しみますが、一方でそれほどまでの郷土愛をつくり出す「祭り」がある方々が羨ましくも思いました。

 今まで基本的に地域の方だけのご神事でしたが、7月の宇出津の「あばれ祭」では地元の方々のご協力を得て専用の観覧エリア(=休憩スペース)をクラブツーリズムのお客様にもご用意いただき、9月の小木の「袖キリコ祭り」でも町の方に祭りについてのお話を伺う機会を持つ予定です。ぜひ、弊社のツアーを機会に町外の者では垣間見ることのできない能登の秘祭に触れていただきたいと思います。

 加えてこの地域はFAO(国連食糧農業機関)の世界農業遺産(里山里海に認定されている農林水産の豊かな地域)ですので、「祭り」と一緒に「食(山の幸・海の幸)」もぜひ堪能していただきたいと思います。

能登が皆さまの日本人としての「心のふるさと」となれば幸いです。

クラブツーリズム株式会社
地域交流部顧問
宮本 茂樹

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