クラブツーリズム TOP「旅の友」Web版【東日本版】日本遺産の地に生きる 〜第5回〜

日本遺産の地に生きる

日本遺産STORY

甲府盆地の東部(山梨市、笛吹市、甲州市の峡東地域)には、平地から急斜面まで見渡す限り美しい葡萄畑が広がっています。中でも甲州市勝沼は、葡萄栽培の始まりが奈良時代と歴史が古く、甲州ワイン(白ワイン)の原料となる日本固有の葡萄品種「甲州」の発祥の地とされています。

明治時代に盛んだった養蚕業は、政府の殖産興業政策により、ワイン産業へと転換。勝沼では全国に先駆けて葡萄酒醸造所が開かれました。水田や桑畑は葡萄畑へと変わり、農家が身近な飲み物として作っていた葡萄酒は、やがて醸造家による本格的なワイン造りに繋がりました。現在、峡東地域は60を超える日本一のワイナリー数を誇ります。

長い年月をかけて作り上げられてきた葡萄畑の風景は、積み重ねてきた葡萄栽培の歴史と、ワイン醸造に情熱を注ぐ醸造家たちの思いに支えられながら、未来へ受け継がれています。

「日本遺産」とは、文化庁が認定した日本の文化・伝統を語るストーリー。2019年6月までに83のストーリーが認定されました。

地域の歴史的魅力や特色を国内外へ発信することや地域活性化を目的としています。

「甲州」種にこだわり、世界を見据える醸造家

「日本を代表するワイナリーになりたい」と力強く語ってくれたのは、勝沼で80年以上続くワイナリー「勝沼醸造」のオーナー有賀雄二さん。

「甲州」種にとことんこだわり、自社の甲州ワインがフランスのワインコンクール「ヴィナリーインターナショナル2003」において銀賞を受賞、世界からも注目を集めています。「ワインは国際商品だから、日本のワインが世界で認められるには国際コンクールで入賞することが大事。でもそれはゴールではなく、あくまでスタート地点」と有賀さん。その目線は常に世界を見据え、前へ前へと進んでいます。

最近は、国内でも徐々に日本のワインが注目されるようになってきましたが、まだまだ知名度が低いのが現状。「東京からそう遠くないところに日本一のワイン産地がある、ということをもっと知ってもらいたいです。気軽に首都圏のワインラバーたちに来てほしい、それがこの土地を守ることにも繋がっていきます」。

勝沼醸造株式会社代表取締役の有賀雄二さん

勝沼醸造株式会社代表取締役の
有賀雄二さん

先人から受け継がれてきた葡萄品種「甲州」
国宝に指定されている大善寺の本堂(薬師堂)。ぶどう寺とも呼ばれる大善寺では、寺域で葡萄を栽培し、自家製ワインも販売しています。参拝とワイン1杯分がセットになった拝観券もあり、気軽に参詣できます

国宝に指定されている大善寺の本堂(薬師堂)。ぶどう寺とも呼ばれる大善寺では、寺域で葡萄を栽培し、自家製ワインも販売しています。参詣とワイン1杯分がセットになった拝観券もあり、気軽に参詣できます

葡萄を手にした大善寺薬師如来像。5年に1度の御開帳(次は2023年)

葡萄を手にした大善寺薬師如来像。5年に1度の御開帳(次は2023年)

樹齢100年以上の「勝沼富町の甲州ブドウ」(通称甲龍)。毎年約200kgの葡萄が収穫でき、ワインが作られています

樹齢100年以上の「勝沼富町の甲州ブドウ」(通称甲龍)。毎年約200kgの葡萄が収穫でき、ワインが作られています

高野正誠と土屋龍憲の肖像は、勝沼のシンボルマークとして町の要所におかれ、ワイングラスなどにも使われています

高野正誠と土屋龍憲の肖像は、勝沼のシンボルマークとして町の要所におかれ、ワイングラスなどにも使われています

 勝沼には「甲州」種の起源にまつわる伝承が残されています。奈良時代の僧・行基の夢の中に葡萄を手にした薬師如来が現れ、村人たちに葡萄の栽培を教えたというお話です。これが「甲州」の始まりで、当初は病気を治すための薬として伝わったといいます。
 勝沼には、甲州市内で最も古い「甲州」の木が「甲龍」の愛称で現存しています。明治時代に勝沼で作られた最初のワインは、この葡萄を使った白ワインでした。
 明治時代初期にワインの生産が始まると、勝沼にあった日本初の民営のワイン醸造会社が本格的なワイン造りの技術習得のため、高野正誠と土屋龍憲の二人の青年をワインの本場フランスへ派遣しました。初めは、技術が未熟であったり貯蔵方法が不十分であったりと思うようにはいかず、試行錯誤を繰り返しました。しかし、長年に渡り先人たちがワイン造りに情熱を注ぎ努力を続けた結果、今では日本一のワイン産地となったのです。

葡萄畑の発展に貢献 日川治水施設

 勝沼地区の東西を流れる日川は、昔から氾濫が絶えない暴れ川。水害が多いため、明治44年から昭和6年にかけて政府直轄の治水計画が開始されました。河床の安定を図るため、長さ約20mの石積みの堤防を、流れに垂直になるよう河川両岸に74基設置した大規模なものです。
 結果、周囲の土地は水はけの良い葡萄栽培に適した地に変わりました。現在治水施設の下部は土砂に埋まり、上部のみが葡萄畑の中に石畳のように残っています。こんなところにも先人たちが重ねてきた努力を見つけることができます。

日川と河岸に設けられた石積みの堤防

日川と河岸に設けられた石積みの堤防

堤防の上部が葡萄畑の中に残っています

堤防の上部が葡萄畑の中に残っています

80年以上続く老舗ワイナリー「勝沼醸造」
1937年創業の「勝沼醸造」。建物は養蚕業の特徴が残されている和風建築のワイナリーです。内装も日本家屋を活かした落ち着く空間になっています

1937年創業の「勝沼醸造」。建物は養蚕業の特徴が残されている和風建築のワイナリーです。内装も日本家屋を活かした落ち着く空間になっています

ワインサーバーにプリペイドカードを差し込むと、ワインがグラスに自動で注がれる仕組み。自分の好きなワインを選んで試飲できます

ワインサーバーにプリペイドカードを差し込むと、ワインがグラスに自動で注がれる仕組み。自分の好きなワインを選んで試飲できます

個性豊かな3つの自社畑「祝(いわい)」「大和(やまと)」「金山(かねやま)」で、こだわりの葡萄栽培に取り組んでいます

個性豊かな3つの自社畑「祝(いわい)」「大和(やまと)」「金山(かねやま)」で、こだわりの葡萄栽培に取り組んでいます

ワインラベルは、デザイナー・綿貫宏介さんの作品。有賀さんの「世界に通じるブランド」という思いを込めたデザインなのだそう

ワインラベルは、デザイナー・綿貫宏介さんの作品。有賀さんの「世界に通じるブランド」という思いを込めたデザインなのだそう

 「勝沼醸造」では、「甲州」種に特化し、勝沼のテロワール(土地)を追求したワイン造りを行っています。勝沼の個性的な土壌をいかし、さらにその良さを引き出す高品質なワインです。
 これらのワインは、ワイナリツアーやテイスティングで、誰でも気軽に試飲できます。勝沼の風土に根ざして作られた甲州ワインは、和食との相性も良く、どんな料理にも寄り添ってくれます。近くに勝沼醸造直営のレストラン「風」があるので、ランチやディナーとともに味わうのもいいかもしれません。

2019年4月、「リーデル社」よりリリース「甲州」にベストマッチなワイングラス

〈リーデル・ヴェリタス シリーズ〉甲州

〈リーデル・ヴェリタス シリーズ〉
甲州

ワイングラスの老舗で、オーストリアの名門ブランド「リーデル社」から今年4月、甲州ワイングラスが発売されました。このワイングラスは、勝沼でワイナリー22社をはじめ39名の専門家とともにテイスティングを行って選ばれました。
 「甲州」は、2010年に日本固有の葡萄として初めてOIV(国際ブドウ・ワイン機構)に品種登録され、これにより世界的に知名度が上がってきています。
 ワインの個性を最大限引き出すために、葡萄品種ごとに理想的な形状を設計したリーデル社のグラス。このグラスひとつで甲州ワインの味わいを余すことなく堪能できます!
 勝沼醸造のグラスギャラリーでは、リーデル社のソムリエシリーズのワイングラスが全種類展示されています。

人と土地を繋ぎ、夢を応援するワイナリー

 勝沼には、たくさんの個性豊かなワイナリーがあります。なかでも「東夢ワイナリー」は、耕作放棄地の農地を復活させようと努力を続けているワイナリー。「自分のワイナリーを持ちたい」「葡萄栽培を始めたい」そんな夢を持つ人たちを応援し、遊休地の仲介なども行っています。
 自身も第2の人生でワイン造りをスタートさせた野さんは、「ワインを造りたいと思っている人たちのために、できることはしてあげたい。そうやって次世代へ繋げていきたい」といいます。
 現在、東夢ワイナリーが進めているプロジェクト「勝沼ワイン村」は、第2の人生でワイナリーを始めようとする人たちの共同体。それぞれ独立した小規模ワイナリーでありながら、共同で8社分(東夢含む)のワインを販売したり、ノウハウを共有したりと、新しく挑戦する人たちを手助けしています。

葡萄栽培の1等地である鳥居平。一部荒れ地となっていましたが、今ではいろいろな人たちの夢が詰まった畑が広がっています。神奈川県から通うご夫婦は、「野さんに畑を紹介してもらい、葡萄栽培を始めました。困ったことは何でも聞けるのでお世話になっています」と語ってくれました

東夢ワイナリー代表取締役会長の野英一さん

東夢ワイナリー代表取締役会長の野英一さん。定年退職後に鳥居平にて耕作放棄地を再生。栽培から醸造まで一貫したワイン造りを行っています

世界唯一のブドウの焼酎「葡蘭酎(ぶらんちゅう)」は、ワインとブランデーをブレンドした東夢ワイナリー自慢の焼酎です

世界唯一のブドウの焼酎「葡蘭酎(ぶらんちゅう)」は、ワインとブランデーをブレンドした東夢ワイナリー自慢の焼酎です

編集部のおすすめスポット

観光・食・おみやげ Pick up

甲州市勝沼 ぶどうの丘

白、ロゼ、赤のワインが並ぶ地下ワインカーヴ(貯蔵庫)。部屋の温度は1年を通して18℃に保たれています

白、ロゼ、赤のワインが並ぶ地下ワインカーヴ(貯蔵庫)。
部屋の温度は1年を通して18℃に保たれています

 葡萄畑が広がる丘の上に立ち、温泉や宿泊施設(全客室、お風呂は温泉です)も備える勝沼のランドマークで、観光拠点になっています。中でも人気なのは、甲州市推奨の約180種のワインが揃う地下ワインカーヴ!
 専用の試飲容器を購入すれば自由に試飲できます。自分好みのワインを見つけてみてください。

ソムリエが使用するタートヴァン(きき酒杯)を象った試飲容器。持ち帰りができるので旅の記念にも

ソムリエが使用するタートヴァン(きき酒杯)を象った試飲容器。持ち帰りができるので旅の記念にも

南アルプスや甲府盆地、夜景の眺望が自慢のレストラン。勝沼ワインを使用した料理が味わえ、試飲で気に入ったワインも注文できます

南アルプスや甲府盆地、夜景の眺望が自慢のレストラン。勝沼ワインを使用した料理が味わえ、試飲で気に入ったワインも注文できます

約30種類あるジェラート。山梨ならではのオリジナルの味をお試しください(写真は左からそば、シャインマスカット味)

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やまなしワインタクシー

ワイナリーで試飲する際の移動は、時間貸し切りで好きなワイナリーを巡ってくれる「やまなしワインタクシー」が便利。地元に詳しいドライバーとの会話の楽しみも

ワイナリーで試飲する際の移動は、時間貸し切りで好きなワイナリーを巡ってくれる「やまなしワインタクシー」が便利。地元に詳しいドライバーとの会話の楽しみも

慶千庵

自家製味噌で作る「ほうとう」専門店。味噌は1年に1トン、寒仕込みで一気に作っているそう。こだわりの辛味噌を加えるとまた違った風味に。夏は冷たいほうとう「おざら」も人気です

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甲州親子だるま

白い色は蚕や綿の豊作を、子だるまのユニークなヒゲは立身出世を祈願。約400年の歴史があり、現在「民芸工房がくなん」の2代目・齋藤岳南さんのみ製作しています

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【日本遺産・葡萄畑が織りなす風景】私が最も愛する場所、勝沼 葡萄の郷

新宿からJR中央線に乗り、笹子峠を越え、トンネルを抜けると、
一面に広がる葡萄畑が現れ、列車は勝沼ぶどう郷駅に到着する。

私は、この日本一の葡萄の郷を、年に幾度となく訪れる。

それは、そこに広がった豊穣の大地から生まれる、芳醇な葡萄と個性豊かなワインが好きだから。
そこで生きる人々、そこに集う人々の、夢と弛まぬ努力に心打たれ、尊敬の念を抱くから。
そして、私をいつでも温かく迎え入れてくれるから。

葡萄畑は四季折々に違った表情を見せる。

春は愛らしい若葉が次々と芽吹き、萌黄色に包まれる。
夏は太陽の光に負けないように、深緑の衣を纏う。
秋は色とりどりの宝石をたわわに実らせ、それらを手放した後、真紅に色付く葉が葡萄の郷を埋め尽くす。
冬は凛とした空気の中で静寂を保ち、冠雪の南アルプスに見守られながら、春の訪れを待つ。

日本遺産の地に生きる人々が守り、伝え続けてきた、この美しい風景と文化は、東京からすぐそこ。
葡萄が実り、新酒が醸されるこれからの季節に、是非訪れていただきたい。

クラブツーリズム株式会社
マーケティング部 古川優子

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