クラブツーリズム TOP「旅の友」web版【西日本版】日本遺産の地に生きる 〜第4回〜

日本遺産の地に生きる

日本遺産STORY

山形県は「山の方(山のある方角)」が県名の由来といわれ、県域の8割を山地が占めています。

中でも村山地方・庄内地方に広がる月山・羽黒山・湯殿山の「出羽三山」は古くから霊山として崇敬されてきました。この地で生まれた羽黒修験道では、羽黒山が現世の幸せを願う「現在」の山、月山は祖霊が鎮まる「過去」の山、湯殿山は新しい生命を表す「未来」の山と見立てられ、三山めぐりは現在・過去・未来をめぐる「生まれかわりの旅」として江戸時代の庶民の間に広がりました。

羽黒山の杉並木から始まる「生まれかわりの旅」。今も参拝者や地域の人々に支えられながら、山の自然を崇め仰いだ先人の想いを伝えています。

「日本遺産」とは、文化庁が認定した日本の文化・伝統を語るストーリー。2019年5月までに80のストーリーが認定されました。

地域の歴史的魅力や特色を国内外へ発信することや地域活性化を目的としています。

昔も今も、出羽三山は心のよりどころ

出羽三山神社・吉住登志喜禰宜

出羽三山神社・吉住登志喜禰宜

東北を代表する聖地とされてきた出羽三山。現在も神聖なパワースポットとして各地から多くの人が参拝に訪れます。

出羽三山神社で神職を務める吉住登志喜禰宜(ねぎ)は「古くから出羽三山は人々に崇められ、その思いは時を超えて現代に受け継がれています。私もその一人として信仰を守り、次の世代に伝えていきたいですね」と語ります。

伝統の山伏修行も、出羽の自然の中で五感が研ぎ澄まされていくのを体感できると、女性グル―プや外国人訪問客にも人気だそうです。

「時間に追われる現代社会では、人が持つ“感じる心”が薄まりがちです。出羽三山は心身ともにリフレッシュできる場所。心を休めると本来の自分を取り戻します。これこそ、現代における生まれかわりなのかもしれません」。

山岳信仰が息づく出羽三山をめぐる
三山の神をまつる出羽三山神社・三神合祭殿(さんじんごうさいでん)。冬季は月山・湯殿山の登拝が困難なため、羽黒山にある三神合祭殿に参拝すれば三山をめぐったとみなされます

三山の神をまつる出羽三山神社・三神合祭殿(さんじんごうさいでん)。冬季は月山・湯殿山の登拝が困難なため、羽黒山にある三神合祭殿に参拝すれば三山をめぐったとみなされます

羽黒山の国宝・五重塔。150年ぶりとなる内部一般公開が行われています(2019年11月30日まで)

羽黒山の国宝・五重塔。150年ぶりとなる内部一般公開が行われています(2019年11月30日まで)

夏は高山植物の宝庫となる月山八合目の弥陀ヶ原湿原。標高1984mの山頂からは庄内平野を望む360度の大パノラマが楽しめます。山頂の月山神社には月読命(つくよみのみこと)がまつられています

夏は高山植物の宝庫となる月山八合目の弥陀ヶ原湿原。標高1984mの山頂からは庄内平野を望む360度の大パノラマが楽しめます。山頂の月山神社には月読命(つくよみのみこと)がまつられています

出羽三山の奥宮・湯殿山神社。この山で体験したことは「語るなかれ聞くなかれ」と古くより戒められ、神秘的な雰囲気につつまれています(写真は湯殿山神社本宮へ続く道の入り口に立つ大鳥居)

出羽三山の奥宮・湯殿山神社。この山で体験したことは「語るなかれ聞くなかれ」と古くより戒められ、神秘的な雰囲気につつまれています(写真は湯殿山神社本宮へ続く道の入り口に立つ大鳥居)

 山岳信仰は、人々の山への畏敬の念から生まれた自然崇拝です。そこから、山に籠って修行に励む「修験道」が生まれ、神仏習合の宗教として広まりました。
 出羽三山は、約1400年前に崇峻天皇の第三皇子である蜂子皇子が羽黒山で修行を積んだ後に開祖となり、その歴史が幕を開けたと伝えられています。最も人里に近い羽黒山は、人々が現世での幸せを祈願することから「現在」を、月山は肉体を離れた魂が極楽浄土に行けるよう願う「過去」を、湯殿山は山伏が最後に修行を成就する聖地であることから「未来」を表しているとされ、三山をめぐると輪廻転生を実践できると考えられてきました。

静寂の杉並木に包まれた羽黒山を歩く

 「生まれかわりの旅」は羽黒山登拝から始まります。地元観光ガイドの前田由紀さんと一緒に、羽黒山山頂を目指しました。

 俗世と聖域の境界とされる随神門(ずいしんもん)をくぐり、下り坂の「継子坂(ままこざか)」を経て、三途の川にも見立てられた「祓川(はらいがわ)」を渡ってしばらく行くと、羽黒山のシンボル・五重塔がお目見え。樹齢300年以上の杉木立の中にそびえ立つ素木造の塔は圧倒的な威厳を放ちます。

 ここから石段の上り坂が始まります。比較的緩やかな「一の坂」、急勾配の「二の坂」と、野鳥の声だけが時折響く静寂の杉並木の中をゆっくり進みます。「三の坂」まで来ればもう一息。赤い鳥居が見えれば山頂です。登り切った達成感に旅の気分もひとしお。爽やかな気持ちで三神合祭殿を参拝しました。

「静寂につつまれた杉並木を、野鳥のさえずりを聞きながらゆっくり歩くととても気持ちがいいですよ」と話す地元観光ガイドの前田由紀さん

地元観光ガイドの前田由紀さん

MAP

※イラストはすべてイメージです

現代に受け継がれる「生まれかわり」の舞台
三の坂をほぼ登り切ったところにある羽黒山参籠所(さんろうじょ)の「斎館(さいかん)」。羽黒山頂に現存する唯一の宿坊で、今も参拝客の食事処や宿泊所として利用されています

三の坂をほぼ登り切ったところにある羽黒山参籠所(さんろうじょ)の「斎館(さいかん)」。羽黒山頂に現存する唯一の宿坊で、今も参拝客の食事処や宿泊所として利用されています

斎館の「神前の間」。扇額(へんがく)に書かれた「羽黒三所大権現」から神仏習合の名残が伺えます

斎館の「神前の間」。扇額(へんがく)に書かれた「羽黒三所大権現」から神仏習合の名残が伺えます

斎館から歩いてすぐの三神合祭殿で早朝に行われる神事「朝御饌祭(あさみけさい)」

斎館から歩いてすぐの三神合祭殿で早朝に行われる神事「朝御饌祭(あさみけさい)」

 羽黒山山頂近くの杉並木にひっそりと佇む「羽黒山参籠所・斎館」。元々は華蔵院(けぞういん)という寺院でしたが、明治時代の神仏分離令の影響で、神社の参籠所として使用されるようになりました。平成17年に鶴岡市の有形文化財に指定されています。
 現在では羽黒山山頂に残る唯一の宿坊として利用されているほか、山伏修行のひとつ「冬の峰」の参籠所でもあり、「神前の間」で祈祷が行われています。
 館内の窓から広がる庄内平野の景色を、きっと昔の人々も眺めたことでしょう。

山伏の伝統を継ぐ精進料理を食す

斎館の精進料理の一例。山うどやタケノコ、ごま豆腐の餡かけやイタドリなどの山の恵みがずらりと並びます

斎館の精進料理の一例。山うどやタケノコ、ごま豆腐の餡かけやイタドリなどの山の恵みがずらりと並びます

 斎館で20年以上にわたり腕をふるう料理長の伊藤新吉さん。2011年にはフランスやハンガリーで、2015年にはイタリア・ミラノ万博で精進料理を紹介したこともあるそうです。
 「山で採れた食材を、山のなかでいただくことで、山の神秘的なエネルギーを直に取り込み、体内を浄化することも山伏の修行の一つと考えられてきました。一方で海外から羽黒山を訪れる方も年々増えています。昔ながらの伝統は大切に守りながら、時代と人に合わせた美味しい精進料理を日々追求しています」。

「海外での経験も良い刺激となりました」と話す伊藤さん

「海外での経験も良い刺激となりました」と話す伊藤さん

人々が歩いた出羽三山参拝ゆかりの地

東北の奥地の出羽三山を目指す旅は、江戸時代の庶民に人気があったといいます。現代に残る出羽三山めぐりのゆかりの地を訪ねてみませんか。

最上川からの出羽三山の入り口

清川関所

最上川を渡った参拝者が初めに通る関所。俳聖・松尾芭蕉の『おくのほそ道』の出羽三山の旅もここから始まりました。「五月雨をあつめて早し最上川」は梅雨の最上川の激流を描写した名句です

松尾芭蕉の句碑

松尾芭蕉の句碑

羽黒山の門前町

手向の宿坊待

参拝者が心身を清める宿坊。羽黒山周辺で最も栄えた宿坊街のひとつ「手向(とうげ)」は、江戸時代には300軒以上の宿坊が立ち並んでいたそうです。今も30軒ほどが参拝者を受け入れ、出羽三山信仰を支え続けています

出羽の古道

六十里越街道

出羽三山を目指す人々が通った街道。海沿いの庄内地方と内陸部を結んでいたため、魚介類や豆などの物資を運ぶ道としても大変にぎわったといいます

ノスタルジックな兜造り

多層民家・旧遠藤家住宅

庄内と内陸を結ぶ六十里越街道の要所・田麦俣集落には独特の茅葺屋根・兜造りの多層民家が立ち並んでいました。今も残る旧遠藤家住宅は山形県有形文化財に指定されています

山菜料理の老舗「出羽屋」で月山の恵みを味わう

 月山の南東部に位置する山形県西川町は、その昔、出羽三山参拝の要所として栄えました。「出羽屋」は、そうした行者の宿として始まり、月山の滋味豊かな山菜をふるまいました。今では全国でもめずらしい山菜料理の店として知られています。
 「旬の山菜に合わせて、その日の献立を変えています。春はきれいな緑でお皿の上が彩られ、夏から秋にかけて徐々に茶色に変わっていくんですよ」と笑顔で語ってくれた女将の佐藤明美さん。山伏修行の精進料理とはまた違う、西川町のおもてなしの文化を感じました。

山菜料理の一例。ニリンソウなど旬の山の恵みが美しく並べられます

山菜料理の一例。ニリンソウなど旬の山の恵みが美しく並べられます

月山で春から夏にかけて採れる「月山筍」の煮物。サクサクとした歯ごたえ

月山で春から夏にかけて採れる「月山筍」の煮物。サクサクとした歯ごたえ

見目華やかな旬の山菜を手にほほえむ女将の佐藤さん

見目華やかな旬の山菜を手にほほえむ女将の佐藤さん

編集部のおすすめスポット

まだまだある 羽黒山の多彩な魅力

神秘的な雰囲気につつまれた羽黒山ですが、ご紹介した以外にも、知っておくと山歩きがさらに楽しめる見どころがたくさんあります。中でもおすすめのスポットをいくつかご紹介。

爺杉

五重塔の近くに立つ推定樹齢1000年以上の老杉で国の天然記念物。羽黒山内に現存する最大の杉の木です

五重塔の近くに立つ推定樹齢1000年以上の老杉で国の天然記念物。羽黒山内に現存する最大の杉の木です

南谷

三の坂の脇道を行ったところにある美しい静寂の地。かつては羽黒山の中心部でした。今は池と庭園跡のみが残っています

三の坂の脇道を行ったところにある美しい静寂の地。かつては羽黒山の中心部でした。今は池と庭園跡のみが残っています

いでは文化記念館

随神門近くにあり、羽黒山や修行などの歴史を展示。ここで学べば「生まれかわりの旅」をより深く楽しめます

随神門近くにあり、羽黒山や修行などの歴史を展示。ここで学べば「生まれかわりの旅」をより深く楽しめます

石段彫り絵

石段にはひょうたんや盃などの絵が紛れ込むように彫られています。33個すべて見つけると願いが叶うとか

石段にはひょうたんや盃などの絵が紛れ込むように彫られています。33個すべて見つけると願いが叶うとか

アカショウビン

野鳥愛好家に人気のアカショウビン(カワセミの一種)。初夏の三神合祭殿前の鏡池で見られるかもしれません

野鳥愛好家に人気のアカショウビン(カワセミの一種)。初夏の三神合祭殿前の鏡池で見られるかもしれません

山形スイーツやかわいらしいおみやげも

清川屋「だだっ子」

鶴岡市産だだちゃ豆を使った特製餡を、和三盆香る上品な皮に包んだ庄内で人気の焼き饅頭です

鶴岡市産だだちゃ豆を使った特製餡を、和三盆香る上品な皮に包んだ庄内で人気の焼き饅頭です

山ぶどうソフトクリーム

「道の駅 月山」にある月山あさひ博物村の名物スイーツ。月山を主峰とする朝日地区産の山ぶどうを使用しています

「道の駅 月山」にある月山あさひ博物村の名物スイーツ。月山を主峰とする朝日地区産の山ぶどうを使用しています

岩城人形店「山形張子」

山形張子は職人手作りの縁起物の玩具。「月山玉兎」は、月山の神の使いである白うさぎをモチーフにしたもの(写真右)

山形張子は職人手作りの縁起物の玩具。「月山玉兎」は、月山の神の使いである白うさぎをモチーフにしたもの(写真右)

神秘の出羽三山を訪ねるツアーはこちら

【日本遺産・自然と信仰が息づく「生まれかわりの旅」】羽黒山から始まる「出羽三山」の旅

今も山伏が修行する修験道の聖地、羽黒山。

朱色の随神門をくぐると、その先は神域。
神域は月山を越え、湯殿山まで広がるという。
そびえ立つ杉木立と石段に溢れ出る山の緑が、継子坂から始まる参道へといざなう。

途中、約600年もの間、風雪に耐えた、精緻で清潔感に満ちる素木造りの五重塔に目を奪われた。

一の坂、二の坂をのぼり、南谷に至る小径を行く。
羽黒山中興の祖とされる天宥別当は、火事による延焼を防ぐために、山頂の寺々を南谷に移築した。
当時は泉や庭が広がる華やかな地であったそうだが、今は礎石の一部が残るだけ。
心字池のほとりにたたずむと、楽園のような当時の美しい姿が目に浮かぶ。

三の坂をのぼりきると、山頂はすぐそこ。
山頂の参籠所で、山の恵みいっぱいの精進料理で身体の中を浄化し、
深い静寂の中、穏やかな心地で眠りについた。
早朝、出羽三山神社に参拝、三神合祭殿で朝の神事を目にする。

山をおりる時、自分の中に芽生えた清々しさや、何やら精気のようなものに気付く。
2446段の石段を一段一段進むたびに、日常の疲れや心の曇りなどがひとつひとつ消えていく。
そう、出羽三山を旅するとは、新しい自分や新たな気持ちを生み出し、心を潤すということなのだ。

木々や山野草の緑の息吹やパワーを感じられるこの季節に、羽黒山から「生まれかわりの旅」を始めたい。

クラブツーリズム株式会社
マーケティング部 古川優子

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